鯛として

わたしは鯛が好きです。鯛がほかの鯛と話していると嫉妬してしまいます。なんでなのかな。ぼくはほかの鯛と何が違うのかな。恋って辛いんやね。鯛の話をしてるときに恋とか言うと、鯉なのかなってなるから、あんまり言わんほうがええけどね、って鯛の松本人志が言うやろね。

俺は鯛の松本人志になりたいんよね。鯛でありながら、鯛の松本人志になりたいんよね。

しかし、なんで他の鯛と比べて、お前という鯛が好きなんやろね。俺もわからんのやけどね。なんかええんよね。他の鯛と話してるとき、とくにお前という鯛にえらい嫉妬している自分がいて驚いたんだよね。俺という鯛だけに話しかけてほしいという、鯛のエゴが出てきたことにほんまに驚いたんだよね。

鯛の割にええ匂いをさせてるからね、お前という鯛はね。鯛の匂いちゃいますよ。もうこうなってくるとお前は鯛じゃないですよ。

鯛の魚臭さがないわけですよ。逆に鯛すぎるのかもしれない。お前という鯛が好きですよ。なんていうか、魚卵感がないというか、逆魚卵といいますか、排卵感がないんですよ。お前という鯛に話しかけるとき、わしは気持ち悪い鯛として話しかけてしまいますよ。で、今から鯛の同僚と飲みに行くわけだけど、どうせお前という鯛は俺の近くにおらんのやろな。どうせ他の鯛の近く、それもオスの鯛と一緒におり、メスの鯛としてそこに存在しとるわけやろな。わかっとんねん。わかっております。

わしは嫉妬という鯛を泳がせ、自らも鯛ということを強く感じ、うまく泳ぐことはできへんのやろね。もうなんでもええからね。わしはどうせお前という鯛に話しかけることもできへん。こうなったら鯛ですらあらへんわ。恋愛の鯛やわ。鯛すぎるわ、さすがに。

びっくりしましたよ、わしがお前という鯛を好んでいる、好んでおります、となんべんも尾ひれを動かしてメッセージを送ったわけやけど、あろうことか知り合いの鯛と交尾しようと思ってる、とお前という鯛は言い出したわけやからね。愕然としましたよ。わしがあの鯛と何が違うねん。もっと大きな鯛にならなあかんねん僕は。鯛としてこの大海原を渡っていかなあかんねん。わしは海原が怖いんや。ほらわかめが左右に揺れとるやろう。あのわかめがなぜ左右に揺れとるのか、僕はいちいち意味を考えてしまうねん。意味の鯛を泳がせてしまうねん。しかもわしという鯛の心はお前というメスの鯛のことばっかり考えとるわけやから、お前という鯛がしてはった表情や鯛ならではの笑顔、そんなもんを思い出して、わしという鯛がなんでこの海原に存在しているのかわからんくなるねん。しかも最近は、お前という鯛はわしのことなんか見向きもしとらん。

今は別に、わかめのことはなんも思わんよ。わかめは揺れとるだけやし。