校舎裏は木が生い茂っている。私は放課後に、みなみを呼び出して一言言おうと思っていたのだ。ずっと言おう言おうと思っていたことをやっと言える気がする。
着いたみなみは私の顔を不思議そうに見ていた。
「急に呼び出してごめん」と私は言った。続けて、ついに言おうとしていたことを言う時が来た。少し息を整えて私は話を続けた。
「言いたかったのは、ペンギンは使いやすいってこと。」
「は?」
「急に言われても困るよね。俺ずっとペンギンは使いやすいと思ってたんだ」
「え?」
一瞬みなみはなにが起こったのかわからないというふうな顔をした。
「ペンギン?って一体何のことですか」
と、みなみは怪訝な顔をした。
「ペンギンはペンギンだよお」と私は笑った。ふいにみなみの顔面から少しだけ残っていた笑みが消えて、人間の顔になった。私はみなみの顔をまともに見てしまって、なにを言えばいいのか突然わからなくなった。少しでもいいから、言葉をかけようとして、私は話し始める。
「ペンギン告白時間。今はね、ペンギン告白時間。」
「は? …、帰っていいですか?」
「帰れないよ。ここは今、ペンギンの時間で道を塞いでいる」
「は…? …なにを言いたいんですか?」
とみなみは言って、また顔は人間の顔のままである。
「タモリはペンギンということ、を、言いたい」
「は?」
「タモリはペンギンを事務所に隠している」
あなたの写真を撮っていいですか、一生涯飾り続けますので。と私は思った。だが、思ったことは言葉にはならなかった。代わりに話を続けた。
「タモリはペンギンを事務所に隠してしまった。であるから、タモリは最近北極で嫌われている」
思ってもいないことだ。タモリのことなんて考えたことがない。普通に生きていたら当然のことだ。
「すいません、私帰ります」
とみなみはきびすを返して正門の方へ向かおうとした。私は腕を掴んで
「ペンギンの話をしようよ!」と言った。
みなみは強く腕を引いていたが、私はその腕を放さなかった。
「やめて!」とみなみは言った。なぜだろう。私はペンギンが使いやすいと思っていただけなのに、それをみなみに伝えたかっただけなのに。駅のホームが駅のホームであるみたいに、ただそれを伝えたかっただけなのに。
タモリは事務所にペンギンを隠していて、私はそのことを知っていた。