官能小説(大学篇)

 朝子の手に、太くて硬いペットボトルが握られた。右手親指でゆっくりと包まれたペットボトルには、白濁した濃い液が溜まっている。

 朝子はそのペットボトルを念入りに、丁寧に愛撫し始めた。

 窓からは朝焼けの陽が生温く光っていた。ペットボトルは今し方冷凍庫の中から出てきて、朝子の手にすっぽりと収まった。それは冷凍庫の中から出てくると形を変えて、気づくと鋼鉄のように硬くなっていた。滴る水滴が妖しく光っていた。

 朝子はゆっくりと、手慣れた手つきでキャップを横へ回転させた。どうやら、初めてではないらしい。水液が周辺に滴った穴を朝子は一心不乱に口に運んだ。こくりこくりと朝子の喉が揺れた。とたんに、座っていたシーツの感触が、生々しく感じられた。ふだんは気にしないが、こういう時にだけ、部屋の物たちが別の生き物のように感じられるのだ。

 瞬時、横で寝ていた伊藤のiPod nanoが、朝子の日本大学へと進学した。朝子の母校が、小さな呻き声を上げた。伊藤のiPodは、日本大学の前期から後期へと、少しずつ進んでいく。朝子は「シラバス」とか細い声で喘いだ。伊藤はiPodを強くシャッフルすると、画面が固まり、気づくと機能を停止させてしまった。まだイントロも流れていない。動かなくなったiPodは、不気味なオブジェのようになり、朝子の日本大学の前で青白くなってしまった。伊藤は「クソ!」と大きな声で叫んで、iPodを見つめた。そして、日本大学の学長である朝子に向かって、「ごめん…」と言った。

 朝子は「うん、大丈夫?」と、アップルユーザーである伊藤に声を掛けた。「うん、ちょっと・・・再起動してみる」と言って、小さなiPodの突起部分を、優しく押した。朝子もそのか細い人差し指で、iPodを優しく撫でた。