時間装置(1)

AはBに尋ねる。

A「あの、道があるとして、道っていっても、どんな道でもいいんだけど。」

B「どないやねん」

A「まあ、道があるとして、人生って道みたいなものじゃん。次どっちの道に行こうかーみたいなね、そういうのってあるじゃん。」

B「この話自体がすごい暗闇を歩いているような感じなんやけど」

A「まぁ、ね。」

と言ってAは少し笑った。Aは高そうな腕時計をしている。

A「その道が真っ暗でさ」

B「いや真っ暗なんかい」

ははは、と二人の笑い声が路地に響いた。

A「真っ暗な道をずっと歩いてるような気分がずっと続いてる感じがする」

B「なんの話?」

A「いや、ね、時々思うんだよね。ずっと歩いてるこの道のりはどこに進むんだろうって」

B「全然話が見えてこーへん。ずっと真っ暗やで。この道も話も。」

A「なんていうんだろうね、なんていうかさ、人生って道のりじゃん」

B「いやだからさっき聞いたって」

A「まあ、道があるとして、人生って道みたいなものじゃん。次どっち行こうかなーって」

B「いや、再放送早ない?テレビやったらクレーム入るで」

A「今はテレビの話してないでしょ!!!!!」

B「うっさ。テレビくらい大きい音やったで」

A「いや、テレビだったら音量下げればいいだろ!!音量音量音量音量!!!!!」

B「もうテレビですらないわ。こっちで音量変えられへんし」

A「そんなんじゃなくて、」

B「ああ、なんやったっけ」

A「道の話。ほらさ、道って入り組んでるじゃん」

B「場所によるやろ」

A「まあ確かにそうだけどさ、そうなんだけどさ、なんていうかあれだよね、でも知らない道を歩くっていうのもなかなかいいじゃん」

B「話替わったん?」

A「変わってないよ」

彼らは代官山周辺でこんな話をしている。周辺を行く人はちらほらと見かけられる。

B「まあ道を歩くっていっても、結局おんなじところに出るってこともあるわけやしね。別の道行ったとしても」

A「ああまあ確かにそうだね。あと、最近はあれじゃん。地図見て目的地に向かうでしょ。まあ、地図っていうかさ、Google マップみたいなの見てさ。あれってさ、現在地が出てくるわけじゃん。自分の。つまりあれはさ、今や”自分”っていうものは、なんていうか、リアルタイムに機器に出てくるものになったってことでしょ。自分の現在地は機械に任せれば出てくるっていうか。そうなってるじゃん。」

B「まあそうやねえ」

A「これで何が言いたいかっていうと、もう俺たちは地図を読まなくてもいいわけ。全部、ナビ・ゲーションされているわけ。だから、自分で別な道を歩いてみるとか、自分の現在地をどうやって把握するか、みたいな能力はどんどん消えていくわけ。」

B「だから何?」

A「便利に負けるな、ってことよ。」

B「え?」

A「便利に勝って行こうよっていう、スローガンなのよ。」

B「スローガンなんや」

A「そう、掲げて行こうぜっていうのを、この前、ヒョロヒョロのバカが言ってたけどね。死に際に。」

そうなんやー、と風が言っているような気さえした。Aの腕時計は5万円以上する、と誰かから聞いたような気がする、とBは思った。Bはワンピースを読んだことがないのが自慢である。