燃える背中

 

軍服を着た男たちが私に向かって話している。

「星々が何個もあるような場所ではきっと放火をしたら悲しむのだ」

とかなんとか。技巧派のような口ぶりで話す彼らはきっと工事現場。

かれらはカレーを食べるのが好きらしくて、カレーの話ともなるとカレーをイメージせずとも口が回るようで。

「カレーはカレーじゃない」「カレーは二度カレーになる」

「カレーは食べてからがカレーである」「カレーはずっとカレーであるのではなく、むしろ少しカレーである」

「カレーを見たことがない」「カレーはホモである」

と、意見を交わしていた。

一応わたしも聞いているふりをしていたがそんなことも彼らは承知の上。

彼らは次は羊についてのトークをしていた。

司会もいた。どうやら悦に入っている。ろくな暮らしもしていないのだろう。

テレビ番組の受け入りのような語り口で話を回している。

「さぁ、道山さん、あなたが思う羊のよさってのはどんなとこでしょう?」

「ぼくですか笑」

何が面白いのかわからないが、まわりの軍服たちも笑う。なにやら和やかな空気が出てきた。

「そうですね〜、羊っていうのは、かわいいのにおいしいしで、すごくないですか。臭いですけどね」

すると司会が「はい、口を開いてくれてありがとうございます。」

「話してくれた、ということはよくわかりました。」

と返した。

「じゃあ木崎さんはどうですか?」

「そうですね、羊は、見たことがないです。見たことがないですが、見られたこともないです。食べたことはありますが、食べられたことはありません。食べたときは肉の状態でした。」

「なるほど、話してくれたっぽいですね。羊の話でしたね。ありがとうございます」

全員飽きてしまったらしく、地面に落書きを始めている人もちらほら。

これでは低空飛行も甚だしい。

「光井さん、すこし流れを変えてもらえますか?」

「はい。羊に関してですが、日本では少しイメージが付きづらいですよね。放牧を行なっているのは国内では北陸のごく一部の地域に限られています。一方北欧では38箇所の都市部でも放牧を行なっているというデータがあります。」

データの人だ、と軍服たちもすこし目を光らせた。データを出されてしまうと、非データのぼくたちはもうタイピングを早くすることしかできないよという悲しい顔をしているものもいた。メモを取ろうと必死に話を聞こうとする熱心なバカもいた。

「光井さん、なんかそのしゃべるやつ続けて」

「はい。そのように国内外でまったく身近に感じる動物は違う、という話を私はしたいわけです。たとえば犬。」

犬...?と軍服たちがざわざわと話し始めた。犬には自信があるのである。

軍服たちは口々に

「知っている」「見たことがある」とざわつきだした。

「犬も国内では非常にペットとして愛されていますが、海外での評価はそれほど高くない。それこそヨーロッパでは百年前までは貴族の間では食用とされていました。海外だけではありません。国内でも江戸時代には秘密裏に貴族たちが犬を食べていたという話もあります」

「わたしが言いたいのは今見えている情報だけを信じ込まずに生きていってほしいということです。私たちが生まれる前、いろいろなことがありました。それを知らずに死んでいってほしくないのです」

背中にとびきりの火を浴びながら男が言っていた、雲が低く、わたしたちは笑いながらそのようすを見ていた。